つげ櫛専門店に行ってみた

「つげ」という木がある。常緑広葉樹の低木で日本では庭木にもよく使われるが、古来、将棋の駒や印鑑などの細工物の材料として重宝されてきた。見た目の美しさはもちろんだが、「つげ」は成長が遅いため、材木は比重が大きく固くなる。加工後の変化が少ないことも愛用される大きな理由という。
 浅草には、この「つげ」を使った櫛の専門店がある。東武伊勢崎線の浅草駅の方から伝法院通りを少し奥まで歩くと、大きな金色の櫛の模型をかかげた店が左手に見つかる。「よのや櫛舗」だ。

大きな金色の櫛が目印


「静電気がまず起きないので、髪の痛みが少ない」
 と、つげ櫛の良さを教えてくれたのは、浅草生まれの女将さん。
 ここの櫛は「本つげ」と呼ばれる「薩摩つげ」のみを使っているという。
 その櫛たちは、陳列棚の中でただならぬ気品を備えている。白木よりもやや黄味を帯びた色に木目が浮かぶ。自然な色にもかかわらず、電灯の光さえ穏やかに反射する光沢を備える。その風合いは、加工が終わった木地の櫛を、椿油に漬け置くことによって生まれるのだそうだ。

こんな風に椿油に漬ける


 風流と縁のない私の生活では、つげ櫛を目にする機会にあまり恵まれない。力士が取り組みの間にまげを直すために髪を引っ張られて、一瞬ムーミンに出てくる女の子(ミイ)みたいな髪型にされた時に、床山の手にあるのを目にするくらいではないだろうか。そんなわけだから、本モノの「つげ櫛」をまじまじと観察するだけで楽しく、発見も多い。
 大きさや形も様々なら、用途も様々。比較的厚めで半月形のモノは、髪をとかすための櫛。長い髪の人は、櫛の歯と歯の間が広めのモノ、ショートヘアーの人は、狭いモノを選ぶのが良いそうだ。怒られそうで聞けなかったが、丸刈りである私に適した櫛は、多分ない。
 彫りを入れた「飾り櫛」や簪(かんざし)も豊富にある。漆を塗ってその上に模様を描いた品もある。これもまた美しい。だが、「これ、時代劇で見たー!」という記憶しか浮かんでこないのは、やはり風流と縁遠い日常を送る中年男の悲しい性である。

本つげならではの色味


 そんな無粋な素人にも、良い素材を使い、手間と時間をかけ、加工と細工を施した櫛や簪が、宝石に劣らない装飾品である事実は、再認識できた。
「強度がしっかりあるものなので、一生モノでございます。一生とは言わず、二代、三代はお使いいただけます」
 女将さんはそう言う。 
 つげ櫛とは、それほど丈夫なものなのだ。
 そうして使い込むことによって、色もすこしずつ濃く、飴色のように変わっていくという。数十年、場合によっては百年以上も使えるとなれば、良いモノでは数万円するという値段も納得できる。

漆塗りの櫛


 櫛が少しずつ色を変えながら、母から娘へ、娘から孫へと、それぞれが生きた時代や思い出と共にバトンのように受け継がれていくなんて、なんてドラマティックで贅沢な日用品なのだ、感動してしまう。「ガールフレンドにプレゼントしたいから、選んで欲しい」なんて相談に来る男性もいるそうだ。もう、ラブラブだなー。
 そんなロマンチックな逸話を披露してくれたご主人も、浅草の人。幼な馴染みで結婚した女将さんに、自分の作ったつげ櫛をプレゼントしたことは「ない」そうだ。もう、照れ屋だなー。

 (写真・文 / 浅草チャンネル編集長 宮崎紀秀)

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